発行日:2024年9月10日
発行者:柏書房
四六判 272ページ ソフトカバー
病院の医師の視線が患者よりモニターに向かう理由とは?
韓医学の病名が西洋医学より曖昧になるのはなぜ?
同じ「打つ」でも鍼と注射では何が違う?
医療が一つでなければ、
身体をめぐる真実も一つではない。
当たり前だと思っていた景色が一変する
学術(アカデミック)ノンフィクション!
《内容》
西洋医学と韓医学。韓国には二つの医療が併存する。韓医学とは韓国の伝統医学のことであり、医療施設の構造、診療方法、医学用語や薬の処方にいたるまで、西洋医学とは対照的だ。そして、この二つの医学が併存しているという状況は、“病む身体”とそれを取り巻く世界に対する理解が、複数存在していることを意味する。本書は、韓医学にかんする人類学のパイオニアが、フィールドワークの記録を用いて、複数の身体・医療・世界を臨場感たっぷりに描き出すものだ。
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身体は一つの医療で完璧な説明がつくものではない。身体の物質的な側面を強調する医療は、精神的で感情的な側面に対する説明が弱くなるほかない。生きている身体の可変性を強調する医療は、身体の物質的側面に対する説明が曖昧になるほかない。しかし、これらの医療に対する理解を深めると、身体という多次元のモザイクを明らかにしていける可能性が開く。本書が言わんとすることは、まさにこのような複数の真実としての身体だ。
(1章より)
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差異について思考することは、両者の対立を煽り、優劣をつけるためではない。メルロ=ポンティ、ドゥルーズ、フィリップ・デスコラ、エドゥアルド・コーンなどの知見も参照しつつ、「異なる存在」をめぐる想像力を再起動し、相互理解の道を模索するための意欲作。
《装画について》
装画は脈診の場面を描いたもの(原書より)。「患者の脈が打てば、脈をとっている医師の指も振動する」。脈診については3章02節を参照。
※本書は한의원의 인류학: 몸-마음-자연을 연결하는 사유 와 치유 by 김태우の日本語訳である。
《目次》
はじめに 身体、医療、世界
1章 身体に関する真実は一つではない
01 人類学者、病院と韓医院に行く
病院、指示の国/人類学、ある旅の記録/韓医院への旅が始まるとき
02 東アジアの身体、西洋の身体
医学書の二つの絵から/ホモ・メディクスと医療に関する人類学/多次元の身体、一つでない医療
2章 診断、身体を知る
01 初対面、診療室
なぜ診断をテーマに扱うのか/診療室の風景
02 対象の固定と、流れを読むこと
西洋医学の確実な対象たち/流れを読む東アジア医学/「気とは何か」
03 再び、診療室にて
「血糖値が上がりました」/「今日はどうされましたか?」/気の流れを読むということ
3章 医学用語、身体を述べる
01 病の名前
言葉に内在する観点/高脂血症と気鬱のあいだ
02 幾何学的な想像力と脈象の想像力
空間化と幾何学的な想像力/脈象の想像力と差異の様相/受動的な主体とその言葉
03 医学と美術、表現の問題
ゴッホと東アジア医学/幾何学と遠近法なしに見ること
04 先行する枠組みと後行する定規
先行する枠組みをもって話すこと/枠組みなく述べること――または後行する定規/客観について
4章 鍼、身体の可能性を手伝う
01 「治療」ではない「治」
「治」という漢字/身体の内外の治
02 自ら運行する身体
流れを助ける経穴/脈絡と経絡/身体はつながっている
03 濃密なアナロジーのネットワーク
ナチュラリズムとアナロジズム/陰陽と四時/姿をもった重層的な流れ
04 ネットワークを揺らす鍼
鍼治療の論理/七情と心の病の治
5章 薬、身体の外にある存在と共に治を行う
01 二人の患者、二つの処方
二人の不眠患者/なぜ人ごとに処方が異なるのか
02 製薬と処方
薬をどうつくるのか/加減の処方/流動する世界、一つではない自然
03 成分と薬性
薬に対する知識/本草と薬性/高麗人参を知るということ
04 人間的なるものを超えた存在と世界
非シンボルを受け取ること/再認と認定
おわりに 「先」の想像力のために
正答と定答/メルロ=ポンティと「知覚され、知覚する者」/ドゥルーズと「出会い」/哲学、芸術、医療(人類学)の接点から/存在論的転回とポストコロナ時代
付言 用語解説、または用語解明
言葉について述べること/身体/健康/生命/医学/生涯と老年/対象/気/身体-言葉-知-世界のつながりの上で
日本語版に寄せて
訳者あとがき
参考文献
《著者プロフィール》
キム・テウ〈김태우〉
延世大学化学科を卒業後、米国ニューヨーク州立大にて文化人類学博士号を取得。現在は慶熙大学韓医科大学教授。伝統医療に関する医療人類学者として、社会文化と医療の相互関係、医療に内在する存在論および認識論を研究している。主要な論文に「韓医学の病名の現象学――人類学的、現象学的接近」「比較不可能な文化研究の人類学――生医学と韓医学、認識と実践の分岐を読む」「インタビューのない現地調査――東アジアの医療知識に対する人類学的接近」「Cultivating Medical Intentionality: The Phenomenology of Diagnostic Virtuosity in East Asian Medicine」「治癒としての人間-植物の関係――存在論的人類学で再読する東アジア医学の本草論」など。
《訳者プロフィール》
酒井瞳〈さかい・ひとみ〉
愛知県出身。東京外国語大学外国語学部朝鮮語学科を卒業後、大手総合人材サービス会社にて勤務。人材派遣部門の営業職として勤務する中で、働く女性の体調不良と漢方薬の相性に関心を持ち、大学院へ進学。東京外国語大学大学院にて修士号(学術)取得。修士論文のテーマは、「日本と韓国の伝統医療に関する医療人類学的研究――鍼治療における近代性との関係構築を中心に」。大学院修了後、漢方薬局にて漢方相談員として勤務。結婚出産を経て現在は韓国語翻訳やWEBライティングに従事。
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